兄は1,000万円、妹は7年間の介護|特別受益と寄与分を具体例で解説

相続人が2人なら、遺産は単純に2分の1ずつ。
そう考える方は多いかもしれません。
しかし、一部の相続人が生前に多額の贈与を受けていた場合や、亡くなった方の介護などに特別な貢献をしていた場合、そのまま法定相続分で分けると不公平になることがあります。
この不公平を調整する仕組みが「特別受益」と「寄与分」です。
今回は、父の介護を続けた妹と、父から住宅購入資金を受け取っていた兄の事例をもとに、特別受益と寄与分の違いをわかりやすく解説します。
※以下の事例や金額は、制度を説明するための架空のものです。

父の介護を続けた妹と、1,000万円をもらっていた兄
兄妹の父が82歳で亡くなりました。
母はすでに亡くなっているため、相続人は長男である兄と長女である妹の2人です。
父が残した財産は、次の4,000万円でした。
自宅の土地・建物 2,000万円
預貯金 2,000万円
葬儀を終え、兄妹で遺産の分け方について話し合ったとき、兄は言いました。
「相続人は僕たち2人だから、2,000万円ずつでいいよね」
しかし、妹は納得できません。
「お兄ちゃんは、家を建てるときに、お父さんから1,000万円をもらっているでしょう。それに、ここ数年、お父さんの介護をしてきたのは私よ」
兄が受け取っていた住宅購入資金
兄は15年前、自宅を購入するとき、父から頭金として1,000万円を受け取っていました。
父の通帳には1,000万円の振込記録が残っており、手帳にも「兄の住宅購入資金」と書かれています。
ところが、兄はこう主張します。
「確かにもらったけど、ずっと前の話だよ。父さんが自分の意思でくれたものだから、今回の相続とは関係ないだろう」
一方、妹には別の思いがありました。
妹が続けていた父の介護
父は7年ほど前から身体が不自由になっていました。
近くに住む妹は、仕事を減らし、食事の準備、通院の付き添い、薬の管理などを続けていました。亡くなる前の3年間は、ほぼ毎日、父の家に通っています。
妹は介護記録をつけており、通院日や介護の内容も残していました。父から報酬を受け取ったことはありません。
しかし、兄は言います。
「近くに住んでいたんだから、それくらい家族として普通じゃないのか」
妹には、二つの疑問が残りました。
「兄が受け取った1,000万円は、遺産分割で考慮されないの?」
「私が続けてきた介護は、相続では何も評価されないの?」
特別受益とは
特別受益とは、一部の相続人が亡くなった方から受けていた、遺産の前渡しと評価できるような特別な利益のことです。
民法では、共同相続人の中に、遺贈を受けた人や、婚姻・養子縁組のため、または「生計の資本」として贈与を受けた人がいる場合、その利益を考慮して具体的な相続分を計算することとしています。
住宅の購入資金、事業を始めるための資金、多額の学費などが問題になることがあります。
今回、兄が受け取った1,000万円は住宅購入の頭金です。そのため、「生計の資本としての贈与」に当たり、特別受益として考慮される可能性があります。
ただし、親から子への贈与がすべて特別受益になるわけではありません。
贈与の金額、目的、当時の生活状況、他の相続人への援助の有無、父が遺産分割で考慮しない意思を示していたかなどを確認する必要があります。
寄与分とは
寄与分とは、相続人の中に、亡くなった方の財産の維持または増加について特別な貢献をした人がいる場合、その貢献を相続分に反映させる制度です。
民法では、次のような行為が例として挙げられています。
家業を無償または低い報酬で長期間手伝った
亡くなった方に金銭や財産を提供した
長期間にわたり療養看護や介護を行った
その他の方法で財産の維持または増加に貢献した
今回の妹は、7年間にわたり父を支え、最後の3年間はほぼ毎日介護をしていました。
その介護によって、介護サービスや施設への支出が抑えられ、父の財産が維持されたと評価できれば、寄与分が認められる可能性があります。
介護をすれば、必ず寄与分が認められるのか
介護をしていたというだけで、必ず寄与分が認められるわけではありません。
寄与分が認められるためには、一般的に次の点が問題になります。
相続人による貢献であること
通常の家族間の助け合いを超えた「特別の寄与」であること
その貢献によって、亡くなった方の財産が維持または増加したこと
貢献と財産の維持・増加との間に関係があること
介護の期間や内容、亡くなった方の要介護状態、介護サービスの利用状況、同居の有無、報酬を受け取っていたかなどを総合的に確認します。
「長年介護をして大変だった」という気持ちは重要です。
しかし、法律上の寄与分として評価されるかどうかは、精神的・身体的な負担だけでなく、財産の維持または増加にどのようにつながったかという点からも判断されます。
特別受益と寄与分を計算に入れるとどうなるか
今回の事例で、仮に次のように評価されたとします。
相続開始時の財産 4,000万円
兄の特別受益 1,000万円
妹の寄与分 500万円
相続人 兄と妹の2人
まず、計算の基礎となる財産を求めます。
4,000万円+1,000万円-500万円=4,500万円
これを兄妹で2分の1ずつにすると、それぞれ2,250万円です。
兄は、すでに受け取っていた1,000万円を差し引きます。
2,250万円-1,000万円=1,250万円
妹は、寄与分500万円を加えます。
2,250万円+500万円=2,750万円
したがって、現在残っている4,000万円については、次のように分ける計算になります。
兄 1,250万円
妹 2,750万円
これは、あくまで制度を理解するための計算例です。
実際には、住宅購入資金が特別受益に当たるか、介護が寄与分として認められるか、寄与分をいくらと評価するかなどを、個別の事情に応じて検討する必要があります。
記録や資料を残しておくことが大切
特別受益や寄与分について話し合う際には、客観的な資料が重要になります。
特別受益に関する資料としては、次のようなものが考えられます。
預貯金通帳や振込記録
贈与契約書
不動産の購入資料
亡くなった方の日記や手帳
当時のメールや手紙
寄与分に関する資料としては、次のようなものが考えられます。
介護日記や介護記録
要介護認定に関する資料
診療記録や通院記録
介護サービスの利用明細
介護に要した費用の領収書
仕事を減らしたことが分かる資料
相続が始まってから、何年も前の出来事を確認するのは簡単ではありません。
通帳や記録を早い段階で整理しておくことが、相続人同士の認識の違いを減らすことにつながります。
相続開始から10年の期間にも注意
現在の民法では、原則として、相続開始から10年を経過した後に行う遺産分割には、特別受益や寄与分に関する規定が適用されません。
ただし、10年以内に家庭裁判所へ遺産分割を請求していた場合など、例外があります。また、相続人全員が合意できる場合まで、法定相続分以外の分け方が一律に禁止されるものではありません。
「話し合いにくいから」と相続手続きを長期間そのままにせず、早めに財産や資料を確認することが大切です。
話し合いがまとまらない場合
特別受益や寄与分について相続人間の話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所の調停や審判の手続が必要になることがあります。
寄与分については、遺産分割調停とあわせて「寄与分を定める処分調停」を申し立てることが一般的です。
相続人間で具体的な対立が生じている場合や、相手との交渉が必要な場合は、弁護士に相談することになります。
まとめ
特別受益と寄与分は、相続人間の実質的な公平を図るための制度です。
兄が生前に受け取った住宅購入資金も、妹が長年続けてきた介護も、遺産分割に影響する可能性があります。
ただし、どちらも自動的に認められるものではありません。
贈与の目的や金額、介護の内容、財産への影響、残されている資料などを整理し、個別に判断する必要があります。
らくだ行政書士おふぃすでは、戸籍の収集、相続人の確定、相続関係説明図・財産目録の作成、相続人間で合意した内容に基づく遺産分割協議書の作成など、相続手続きを幅広く支援しています。また、円滑な遺産分割協議を進めるための進め方や考え方についてのアドバイスも可能です。
「何から確認すればよいか分からない」という段階でも構いません。まずは、お気軽にご相談ください。




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