相続債務の承継

相続した借金は誰が払う?「兄が全部引き継ぐ」と決めた場合の注意点
相続では、預貯金や不動産などの財産だけでなく、借入金などの債務も引き継ぎます。
では、相続人同士で「借金は長男が全部引き継ぐ」と決め、遺産分割協議書にも記載した場合、ほかの相続人は銀行から返済を求められないのでしょうか。
今回は、具体的な事例から「相続債務の承継」について解説します。

物語|相続債務の承継 兄が引き継ぐはずだった借金が・・・
「自宅も借金も兄が引き継ぐ」
父が亡くなりました。
母はすでに他界していたため、相続人は兄と妹の2人です。
父が残した財産は、次のとおりでした。
自宅 3,000万円
銀行からの借入金 1,200万円
兄は妹に、こう提案しました。
「自宅も借金も自分が引き継ぐ。迷惑はかけないから安心してほしい」
妹も兄の言葉を信じました。
家族で話し合い、自宅と借入金の両方を兄が引き継ぐ内容の遺産分割協議書を作成しました。
これで相続手続きは終わったと思っていました。
半年後、銀行から届いた督促状
ところが、半年後。
妹の自宅に、銀行から借入金の返済を求める通知が届きました。
「亡くなった父の財産も借金も、すべて兄が引き継ぐ話だったのに……」
困惑する母を見て、娘が尋ねます。
「どうしたの?」
母は銀行から届いた通知を見せ、これまでの経緯を説明しました。
娘は疑問に思います。
「遺産分割協議書に書いてあるのに、どうして銀行はお母さんにも請求できるの?」
解説|借入金は法定相続分に応じて承継するのが原則
相続人は、亡くなった方が持っていた財産だけでなく、原則として債務も承継します。
また、共同相続人は、それぞれの相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します。これは民法896条、899条に定められています。
今回の相続人は、兄と妹の2人です。
法定相続分は、それぞれ2分の1になります。
したがって、1,200万円の銀行借入金については、原則として次のように承継します。
兄 600万円
妹 600万円
金銭債務は、相続開始と同時に法定相続分に応じて分割されるのが原則です。
そのため、銀行は妹に対しても、法定相続分に応じた返済を求めることができます。
遺産分割協議書は銀行にも通用する?
兄妹の間では、「借入金は兄が全部負担する」という合意が成立しています。
しかし、この合意は、基本的には相続人同士の内部的な取り決めです。
銀行は遺産分割協議に参加していません。そのため、銀行の承諾がない限り、遺産分割協議書の内容を当然に銀行へ主張できるわけではありません。
つまり、「兄が借金を全部払うと決めた」という兄妹間の約束だけでは、妹が銀行に対する返済義務から外れるとは限らないのです。
妹はどう対応すればよい?
まず、銀行からの通知を放置してはいけません。
借入契約の内容、残額、銀行が請求している根拠と金額を確認する必要があります。
そのうえで、遺産分割協議書を銀行に示し、兄が借入金を引き継ぐ手続きができるか相談します。
銀行が承諾し、兄だけを債務者とする免責的債務引受などの手続きが完了すれば、妹が返済義務を免れる可能性があります。ただし、銀行による審査や契約手続きが必要です。
また、妹が銀行へ返済した場合でも、遺産分割協議書の記載内容によっては、妹から兄へ支払った金額を請求できる余地があります。
ただし、兄に支払能力がなければ、実際に回収できない可能性もあります。
遺産分割協議の前に確認したいこと
相続財産に借入金がある場合は、遺産分割協議書を作成する前に、次の点を確認することが大切です。
借入金の残額と契約内容を確認する
担保や連帯保証人の有無を確認する
誰が借入金を負担するのか話し合う
借入先の金融機関へ事前に相談する
必要に応じて債務引受について銀行の承諾を得る
ほかの相続人が返済した場合の精算方法も協議書に記載する
特に、「不動産を取得する人が借金も引き継ぐ」という分け方をする場合は、相続人だけで決めて終わりにしないことが重要です。
なお、借金が多く、相続を希望しない場合は、相続放棄も選択肢になります。相続放棄は、原則として自己のために相続が開始したことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所で手続きをする必要があります。
遺産を処分した後や、遺産分割協議をした後では、相続放棄が認められない可能性があるため、早めの確認が必要です。
まとめ
借入金などの相続債務は、原則として法定相続分に応じて各相続人が承継します。
遺産分割協議書に「借金は長男がすべて引き継ぐ」と記載しても、その合意だけで、ほかの相続人が銀行に対する返済義務から外れるとは限りません。
大切なのは、遺産分割協議を行う前に借入金の内容を確認し、金融機関とも調整することです。
らくだ行政書士おふぃすでは、相続人の調査、相続財産と債務の整理、遺産分割協議書の作成など、円満な相続手続きをサポートしています。
債権者との交渉や相続人間の争いがある場合には、内容に応じて弁護士への相談が必要になります。
「財産の分け方は決まったけれど、借金の扱いが分からない」という場合も、遺産分割協議書へ署名する前に、ぜひご相談ください。
※本記事は、一般的な金銭債務についての解説です。連帯保証債務、不可分債務、担保付債務などは、契約内容によって取扱いが異なる場合があります。


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