デジタル遺言とは? 新しい「保管証書遺言」の仕組みと注意点

「遺言書をパソコンで作れるようになる」と聞いて、気になっている方もいるのではないでしょうか。
2026年6月17日に成立し、同月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)により、新しい遺言方式「保管証書遺言」が設けられました。一般に「デジタル遺言」と呼ばれる新制度です。
ただし、2026年9月時点で、まだ利用は始まっていません。 パソコンで作った文書を保存するだけで、有効な遺言になるわけでもありません。何が変わるのか、現在の制度と分けて解説します。

1 デジタル遺言は、どのような制度?
保管証書遺言は、パソコンなどで用意した遺言書について、本人が所定の手続きを行い、法務局で保管する新しい方式です。
自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言に加わる、普通方式の遺言の一つとなります。
大きな特徴は、遺言の本文をすべて手書きする必要がないことです。長い文章を手書きする負担を減らせます。
また、「デジタル」という名前から電子データだけを想像しがちですが、法律上は次の両方があります。
種類 | 作成するもの |
書面保管証書遺言書 | パソコンで作成して印刷したものなど、紙の遺言書 |
電子保管証書遺言書 | 電子データで作成した遺言書 |
根拠:改正後の民法967条・968条の2、遺言書保管法2条。
2 いつから利用できる?
保管証書遺言に関する規定は、2026年6月24日の公布から3年以内の、政令で定める日に施行されます。
「法律が公布された日」と「実際に新制度を使える日」は異なります。この記事では、開始日を特定の日付として案内していません。
なお、同じ改正には自筆証書遺言などの押印要件の廃止も含まれますが、こちらは公布から1年以内の政令で定める日が施行日です。保管証書遺言の創設とは時期が分かれています。
押印要件の廃止が施行される前は、従来どおり押印が必要です。
根拠:改正法附則1条2号・3号、法務省の改正法案内。
3 作成・保管には、本人の手続きが必要
新制度は、おおむね次の流れになります。
遺言の全文を記載・記録した書面や電子データを用意する。
遺言者本人が署名、または法務省令で定める署名に代わる措置を行う。
法務局に保管を申請し、本人確認を受ける。
本人が遺言書保管官の前で、原則として遺言の全文を口述する。
法務局が遺言書を保管する。
「口述」とは、書かれた内容を本人が口頭で述べることです。家族が作成を手伝った場合でも、家族が代わりに口述すればよいという制度ではありません。
電子データの場合は、遺言の全文に加えて氏名の記録も必要です。利用できるデータ形式や、署名に代わる具体的な措置、必要書類などは、施行に向けた政省令・公式案内を確認する必要があります。
声で伝えることができない方には、通訳人の通訳による申述や自書で口述に代える特則があります。また、財産目録は、保管官が本人に閲覧させるなど所定の措置を講じる場合、口述を省略できます。
根拠:改正後の民法968条の2・968条の3、遺言書保管法7条・8条。
4 自宅からオンラインで手続きできる?
ウェブ会議を利用して、本人確認や口述を行う仕組みも設けられます。
ただし、本人の申出があり、遺言書保管官が相当と認めることが必要です。誰でも無条件にオンラインで完結できるわけではありません。
国会での政府説明でも、通信状態や、本人が他人から影響を受けずに口述できる状況を確認する必要があるとされています。具体的な利用条件は、今後の案内を確認しましょう。
根拠:改正後の遺言書保管法7条7項・8条2項、2026年5月22日衆議院法務委員会の政府答弁。
5 自筆証書遺言や公正証書遺言との違い
比較項目 | 自筆証書遺言 | 保管証書遺言〈新制度〉 | 公正証書遺言 |
本文の作成 | 本人が手書き | パソコン等で作成可能 | 本人の意思に基づき公証人が作成 |
法務局への保管 | 任意 | 効力を生じるために必要 | 公証役場側で保管 |
本人による口述等 | 通常は不要 | 原則として全文の口述が必要 | 原則として遺言の趣旨を口授 |
証人 | 不要 | 通常の方式要件としては不要 | 2人以上が必要 |
家庭裁判所の検認 | 原則必要。法務局保管なら不要 | 法務局保管のため不要 | 不要 |
※自筆証書遺言も、添付する財産目録はパソコン等で作成できます。ただし、本文までパソコンで作成できるという意味ではありません。
※検認は、遺言書の状態や内容を確認・保全する手続きであり、遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。
根拠:民法968条・969条・1004条、改正後の民法968条の2、遺言書保管法20条、政府広報の遺言解説。
6 「保存するだけ」「動画を残すだけ」では足りません
例えば、パソコンで「預金を長女に遺す」と入力し、自宅のパソコンやUSBメモリに保存しておいたとします。
それだけでは、保管証書遺言の要件を満たしません。署名等や本人の口述などに加え、法律に従った法務局での保管が必要です。
なお、保管が必要というのは、預けた瞬間に財産が移るという意味ではありません。遺言は原則として、遺言者が亡くなった時から効力を生じます。
LINEやメールを家族に送るだけ、スマートフォンで動画を撮るだけでも、保管証書遺言にはなりません。
今回の改正には、死亡の危急に迫った場合などの特別方式で録音・録画を利用する仕組みもありますが、それは別の要件を満たす必要があります。
7 保管しても、遺言内容の確認は大切
新制度でも、誰に、どの財産を、どのように遺すのかを明確にする必要があります。法務局で保管されることだけをもって、内容の有効性まで保証されると考えることはできません。
例えば、次の点は作成前に確認しておきたい事項です。
財産を受け取る人と、対象となる財産を特定できるか
相続人の遺留分に配慮する必要があるか
財産を遺す相手が先に亡くなった場合を決めているか
遺言を実行する遺言執行者を指定するか
また、手書きの負担が減ることと、遺言内容を理解・判断できることは別の問題です。遺言能力についての検討も必要です。
利用料も、現在の自筆証書遺言書保管制度と同じ金額になるとは限りません。新制度の手数料は、正式な案内で確認しましょう。
8 制度が始まるまで、準備を待った方がよい?
新制度を待たなくても、現在の自筆証書遺言や公正証書遺言で備えることができます。
特に、「長い文章を手書きするのが難しい」という方には、公正証書遺言という選択肢がすでにあります。
まずは、財産と家族関係を整理し、誰に何を遺したいのかを考えておきましょう。方式を選ぶ前でも、この準備は進められます。
らくだ行政書士おふぃすでは、遺言内容の整理、戸籍等の収集、財産目録・遺言書案の作成などをサポートしています。
「自分にはどの方式が合うのか」「今から準備した方がよいのか」という段階でも、お気軽にご相談ください。
※本記事は2026年9月時点の公布済み改正法と公表資料に基づく一般的な解説です。新制度の申請方法等は、施行に向けた公式案内をご確認ください。




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