遺言の「遺贈する」と「相続させる」は何が違う? 特定遺贈・包括遺贈・特定財産承継遺言・相続分の指定を具体例で整理

遺言書には「長男に相続させる」「友人に遺贈する」などの表現が使われます。同じように財産を遺すのに、何が違うのでしょうか。
この違いは、受け取る財産だけでなく、借金の承継、受け取りを断る手続き、遺産分割の必要性にも関係します。今回は、混同しやすい用語を具体例で整理します。
以下の文例は、違いを説明するための簡略なものです。実際の遺言書では、受け取る人や財産を特定し、他の条項との整合性も確認する必要があります。

1 「遺贈する」と「相続させる」の基本
遺贈とは、遺言によって、死亡後に財産を無償で譲ることです。受け取る人を「受遺者」といいます。相続人以外の友人や、法人にも財産を遺せます。
遺贈は、相続人に対してもできます。「相続人には相続、相続人以外には遺贈」と完全に分かれるわけではありません。
一方、「相続させる」は、相続人として財産を承継させる趣旨で使う表現です。友人に「相続させる」と書いても、その友人が法定相続人になるわけではありません。
ただし、言葉を取り違えたからといって、必ず無効になるとも限りません。遺言全体の内容や遺言者の意思を踏まえて解釈する必要があります。初めから、相手の立場と希望する効果に合う表現を選ぶことが大切です。
2 4つの遺し方を比べてみましょう
遺し方 | 簡単な文例 | 主に決めること |
特定遺贈 | 「この絵画を友人に遺贈する」 | 特定の財産・権利や一定額の金銭を渡す |
包括遺贈 | 「全財産の2分の1を友人に遺贈する」 | 遺産全体に対する割合で権利義務を承継させる |
特定財産承継遺言 | 「この自宅の土地・建物を長男に相続させる」 | 特定の遺産を取得する相続人を決める |
相続分の指定 | 「妻の相続分を4分の3、長男を4分の1とする」 | 共同相続人の相続割合を決める |
特定遺贈・包括遺贈は民法964条、相続分の指定は902条、特定財産承継遺言の定義は1014条2項に関係します。
3 特定遺贈――財産や金額を指定して遺す
「この絵画を友人に遺贈する」「金100万円を姪に遺贈する」といった遺し方です。
「特定遺贈」は、絵画のような特定の物だけに限りません。一定額の金銭を遺贈する場合も含まれます。「特定遺贈」と「特定物の遺贈」は同じ意味ではありません。
また、「この土地の持分2分の1を友人に遺贈する」という文例も、対象は特定の土地の持分です。割合の数字があるだけで包括遺贈になるわけではありません。
特定遺贈を受けただけで、遺言者の借金全般を引き継ぐことは、原則としてありません。ただし、受遺者自身が相続人であれば、相続人としての債務承継は別の問題です。抵当権が付いた財産や負担付遺贈にも注意が必要です。
4 包括遺贈――遺産全体を割合で遺す
「全財産を友人に遺贈する」「全財産の2分の1を友人に遺贈する」といった遺し方です。
民法990条は、包括受遺者について、相続人と同一の権利義務を有すると定めています。プラスの財産だけでなく、借金なども、遺贈された割合に応じて承継するのが基本です。
例えば、プラスの財産が3,000万円、通常の金銭債務が600万円あり、全財産の2分の1を友人に包括遺贈した場合を考えます。
内容 | 友人が承継する割合・金額 |
プラスの財産 | 2分の1に当たる1,500万円相当 |
借金 | 2分の1に当たる300万円 |
これは、友人が直ちに現金1,500万円を受け取れるという意味ではありません。他の相続人などと遺産を共有する場合、具体的に誰がどの財産を取得するかを決めるため、遺産分割が必要になることがあります。
また、包括受遺者になっても、法定相続人そのものになるわけではありません。友人が包括遺贈を受けても、それによって遺留分を持つことはなく、その友人の子に当然に代襲相続が生じるわけでもありません。
5 特定財産承継遺言――特定の財産を相続人に承継させる
例えば、「自宅の土地・建物を長男に相続させる」という遺言です。
民法1014条2項では、遺産分割方法の指定として、遺産に属する特定の財産を、共同相続人の一人または数人に承継させる旨の遺言と定義されています。
いわゆる「相続させる旨の遺言」のうち、この定義に当たるものです。相続分の指定などもあるため、「相続させる」と書かれた遺言が、すべて特定財産承継遺言になるわけではありません。
その財産は、原則として、遺言者の死亡により指定された相続人に承継されます。その財産を誰が取得するかを改めて遺産分割協議で決める必要はありません。
ただし、名義変更などの手続きまで不要になるわけではありません。法定相続分を超える権利の承継については、登記などの対抗要件を備えなければ第三者に主張できない点にも注意が必要です(民法899条の2)。
6 「相続分の変更」は、法律上は「相続分の指定」
相続人が妻と長男の2人であれば、法定相続分は原則として各2分の1です。遺言で「妻を4分の3、長男を4分の1」と定めることもできます。これが「相続分の指定」です(民法902条)。
相続分の指定は「割合」を決めるものです。割合だけを指定しても、「自宅は妻、預金は長男」といった個々の財産の行き先まで決まるわけではありません。具体的な分け方は、別途、遺産分割などで決める必要があります。
財産を減らされた人の借金も、同じように減る?
相続分の指定と、債権者への返済義務は分けて考えます。
上の例で借金が600万円ある場合、債権者は原則として、妻と長男に法定相続分に応じた各300万円を請求できます。長男が「遺言では4分の1だから150万円しか払わない」と当然に主張できるわけではありません。
ただし、債権者が指定された相続分に応じた債務承継を承認した場合は別です(民法902条の2)。相続人同士の最終的な負担の調整も、これとは別に確認します。
7 受け取りを断る方法も違う
遺し方 | 受け取りを断るときの基本 |
特定遺贈 | 原則として、遺言者の死亡後、遺贈義務者に放棄の意思を表示する。家庭裁判所への申述は不要 |
包括遺贈 | 相続放棄と同様に、原則として自己のために包括遺贈があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述する |
特定財産承継遺言・相続分の指定 | 相続そのものを放棄するなら、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述する |
特定遺贈には、相続放棄と同じ3か月の期限はありません。ただし、利害関係人から相当の期間を定めた催告を受け、期間内に意思表示をしないと、承認したものとみなされます。いったん承認・放棄をした後に、自由に撤回できるわけでもありません(民法986条・987条・989条)。
また、特定財産承継遺言で指定された財産だけを、特定遺贈と同じ方法で放棄できるわけではありません。別の相続人に取得してもらいたい場合は、関係者の合意、遺言執行者の有無、税務上の扱いなどを個別に確認します。
8 「遺贈」と書かなければ、遺留分の対象外になる?
なりません。特定財産承継遺言や相続分の指定でも、遺留分を侵害すれば、金銭の支払いを請求されることがあります。
ここで注意したいのが、条文によって、用語に含まれる範囲が広げられていることです。
民法1046条1項は、遺留分の章で使う「受遺者」に、特定財産承継遺言により財産を承継した相続人と、相続分の指定を受けた相続人も含めています。
通常の分類では「遺贈」と「相続させる旨の遺言」を区別しますが、遺留分の規定では、これらの相続人も請求の相手になります。この定義を、他の条文すべてにそのまま当てはめることもできません。
法律を読むときは、用語だけでなく、括弧書きや「以下この章において同じ」といった、定義の適用範囲まで確認することが大切です。
9 あわせて知っておきたい用語
負担付遺贈
財産を遺贈する代わりに、受遺者へ一定の義務を負わせるものです。例えば、財産を遺贈する代わりに、家族への生活費の支払いを義務付ける場合です。受遺者は、原則として遺贈の目的の価額を超えない限度で、その義務を履行する責任を負います(民法1002条)。
「特定・包括」は遺す財産の指定方法、「負担付」は義務を付けるかどうかの違いです。別の観点からの分類です。
死因贈与
「私が亡くなったら、この財産をあなたに贈る」と、生前に当事者間で合意する契約です。遺言者が単独で行う遺贈とは異なります。
民法554条により、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定が準用されます。死亡後に財産が移るという共通点だけで、遺言と同じ手続きだと考えないようにします。
予備的な遺言
財産を渡したい相手が自分より先に亡くなった場合などに備え、次に誰へ遺すかを決めておくものです。
受け取る予定の人が先に亡くなっても、その人の子へ当然に同じ財産が移るとは限りません。「全財産を遺す」と決める場合も含め、万一の代わりの行き先を考えておくと安心です。
遺言の文言に迷ったら、らくだ行政書士おふぃすへ
遺言書は「誰にいくら遺すか」だけでなく、相手が相続人か、どの財産を渡すか、借金があるか、実際にどう手続きを進めるかまで考えて作成することが大切です。
らくだ行政書士おふぃすでは、ご希望や家族関係、財産の内容を整理し、遺言書原案の作成や公正証書遺言の準備をサポートしています。
「相続させると書けばよいのか」「お世話になった人に、負担をかけずに財産を遺したい」といった段階からご相談ください。
主な根拠・参考資料
民法(e-Gov法令検索):554条、899条の2、902条、902条の2、908条、915条、938条、964条、986~990条、994条、1002条、1014条、1046条。
国税庁・税務大学校「相続税法(基礎編)令和8年度版」:参考「民法の相続制度の概要」、冊子138~139頁。遺贈の分類、包括受遺者の地位、放棄、死因贈与。
法務省「相続法の改正」:特定財産承継遺言、対抗要件等。
日本公証人連合会「予備的な遺言」:受け取る予定の人が先に死亡した場合の備え。
※現行民法の条文を2026年10月時点に確認。個別の遺言の効力は、その文言全体や事情により判断します。




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